はじまり
茶葉本来の味と香りを届けたい
創業者の塚田 英次郎は飲料メーカー サントリーにて、2006年以来10数年にわたり日本・アメリカでのお茶事業に携わってきました。一年間常温で保存が必要なペットボトル飲料は、高温での熱殺菌が必要となります。「おいしいお茶」を追求する上で、彼が理想とする茶葉本来の「味」と「香り」をそのまま、ペットボトル飲料で届けることに限界を感じていました。
そんな中、アメリカでは2014年ごろから抹茶ブームが始まります。コーヒーのカフェインクラッシュに悩む人々の間で、サスティナブルなエナジーを求めて、抹茶が注目されたことが背景にありました。ただ、抹茶カフェで提供されるファッショナブルな抹茶ドリンクは、本物の抹茶の美味しさを提供しているとは言えないものでもありました。
抹茶は、お茶の中でも唯一茶葉をまるごと臼で挽き、茶葉のもつ栄養素をすべて食すスタイルのお茶です。急須で楽しむお茶は、7割の栄養素を茶殻として捨ててしまいます。英次郎は「おいしいお茶」を追求するなかで、捨てるものがなく、まるごと摂取する「抹茶」に魅了されるようになります。なかでも、京都で体験した「挽きたて抹茶」の味と香りは格別でした。
そもそも茶の湯でも、千利休の時代は客人へのおもてなしの一環で、挽きたての抹茶を出すのがあたり前でした。 冷蔵技術の発達とともに、すでに挽かれた粉を使うのがあたり前になったのですが、英次郎は本来の「挽きたて抹茶」にこだわり、それを世の中に広めたいと思うようになりました。
そこでカフェ事業に乗り出すことを決め、アメリカのサンフランシスコでStonemill Matchaという抹茶カフェをオープンさせました。連日行列ができる人気店舗になりましたが、オペレーションの関係で挽きたての抹茶を出すことは諦めざるをえませんでした。さらに、自宅用に抹茶を買って自分でお茶を点てる人は残念ながらいませんでした。
一般的な挽かれた状態の粉の抹茶(挽きおき抹茶)は、きめ細かな粉がゆえに酸化しやすく、香りや色の変化が早い特徴があります。またダマを茶こしでこして、茶筅で点てるなど、誰もが簡単に抹茶を楽しむのは容易ではありませんでした。
コーヒーのエスプレッソマシンのように、挽きたて抹茶の美味しさを簡単に味わえるマシンはつくれないだろうか?
その挑戦に、英次郎の古くからの親友であり、後に共同創業者となる八田大樹が乗りました。彼は、福岡県八女市出身で、お茶業界で働く親族や地元の友人に近年活気がないことを憂慮し、お茶産業を活性化したいと考えていたのです。二人の新しい挑戦がはじまりました。
マシンの誕生
挽きたての抹茶を自宅で気軽に
彼らがめざしたのは、石臼で挽く挽きたて抹茶を、自宅で気軽に毎日飲めるようにすることでした。つまり伝統的なお茶の味や香りはそのままに、現在の生活スタイルに取り入れやすい利便性の向上を目指したのです。つまり①石臼で挽く②茶筅で点てる の2つの機能を併せ持つ抹茶マシンの開発を目指したのです。
シリコンバレーに住むエンジニアをチームに招き入れ、彼の自宅ガレージでマシンの試作が始まりました。大きくて重い石臼で挽かれた抹茶は5-10ミクロンの細かさで、細かく挽くほど口当たりがよくなります。金属の歯を使ったグラインダーでは100-200ミクロンまでしか細かくならず、これでは彼らが求める最高の挽きたて抹茶には程遠い。利便性と最高の挽きたて抹茶の両立に苦戦します。
悩む開発チームがたどり着いたのはセラミックミルという選択肢でした。セラミック製の臼なら平均6.1ミクロンの抹茶が作れ、小型のマシンに搭載することができます。チームが目指す抹茶マシンに一歩近づきました。
チームが次に向き合ったのは、抹茶を点てる機能です。茶筅の動きを参考に、様々な案が考えられました。ここでチームが大切にしたのが、「毎日つかう」という点です。お客様に毎日気軽に使っていただくには、お手入れを簡単にしたい。茶筅の機能をどこにつけるか?の模索から始まり、綺麗な泡立ちの実現を何度もテストし、現在のようにカップにウィスクをつけるというスタイルにたどり着きました。
ボタン一つで茶葉を挽き、抹茶を点てる。扱いが大変な「粉」を介すことなく、茶葉から直接液体化させることに成功。
実はこのマシンの開発には、もう一つ実現させたいこだわりがありました。それが「“利便性”と“環境への配慮”の両立」です。世の中には、シングルユースのものが溢れています。ペットボトルや一杯ごとのカプセルなど、環境への配慮を後回しにして利便性を高めることが多い中、私たちは利便性と環境への配慮の両立は可能だと考えていました。思案する中でヒントとなったのが、昔からある茶筒です。マシンに茶筒をつけることで、コーヒーマシンで多く採用されているカプセル(一回分量ごとに個装されたカプセル)のように毎回ゴミを出すのではなく、ある程度まとまった量のリーフを茶筒に保管しすることで、パッケージのゴミを最小限に抑えながら、利便性を確保することに成功したのです。
デザインは開発の初期段階で決めていたまるい円がぽっかりあいたデザイン。茶室の円窓に着想を得て、「抹茶マシンがあるだけで禅を感じる空間になってほしい」という思いをこめたものでした。まさに、叶えたい理想を詰め込んだ「挽きたての抹茶を、自宅で誰もが気軽につくれる抹茶マシン」の誕生でした
茶葉へのこだわり
霧に秘められた美味しさの秘密
抹茶マシンの量産化に向けて準備が進む中、私たちは理想とする茶葉についても理想を追い求めました。抹茶は茶葉をまるごと摂取するため、農薬や化学肥料を使わない100%オーガニックにこだわりたい。しかし国産のオーガニック茶葉は生産量の数%とごくわずかしかありません。英次郎はお茶の生産者を訪ね、理想とする抹茶に適したオーガニック茶葉を探し求めました。
彼が農家をまわる中で何度も耳にしたのが、「オーガニックのお茶は美味しくない」という声でした。抹茶の原料である碾茶(てんちゃ)は収穫前の2−3週間、覆いをかけることでうまみを増やすため、煎茶に比べて虫がつきやすい。そのため、肥料をあまり与えず、自然に近い状態で育てる自然農法が一般的でした。しかし自然農法では虫がつきづらくなる反面、お茶の味が大きく落ちてしまうというのが通説でした。
英次郎はそれが真実なのかは、自分の目で見て、舌で味わい確かめたいと、理想の茶葉探しをつづけました。農家巡りを続ける中で、鹿児島県霧島でお茶づくりをする一軒の農家さんに出会いました。
驚きを隠せないほどの衝撃。うまみが強く、茶葉の味を深く感じられるオーガニック抹茶との出会い。
彼らの有機茶葉は、茶の木にたくさんの栄養分を与え、強い木を作るというのが基本の考えでした。子どもにしっかりと栄養を与えて育てるのと同じように、茶の木にも栄養を十分にあたえることで、木は丈夫に育ち、病気になりにくくなるというのです。
ただ栄養分を与えると言っても、化学肥料と違い、有機肥料は土壌中のバクテリアが分解しなければ、茶の木が養分を吸収できないため、バクテリアが土の中でしっかりと働けるよう、土中の水分含有量を保つことが必要です。彼らは、常に土壌の水分量を計測し、乾燥してくると、地下水を汲み上げた水を畑へまいていました。
有機農法で育てるのは手間もかかるし肥料代もかかるため、それを採用する農家はとても少ないけれど、彼らは日本に有機認定認証が始まる前から、農薬や化学肥料に頼ることなく、茶の木と対話を重ねながらしっかりと味の詰まった茶葉づくりをしていたのです。
オーガニックのお茶作りは天・地・人の英知をかけ合わせたものです。
天の恵(雨や霧)、地の利(標高が高くて虫が少ない、豊富な地下水)、人の力(探究心、アイデア、実行力)まさに霧島で出会ったこの生産者さんは、霧島という土地の利と人間の知恵を生かして、美味しい茶葉をつくっていたのです。
こうして、Cuzen Matchaは理想的な茶葉を、抹茶マシンで、誰もが簡単に楽しむことをお届けできるようになりました。
英次郎からのメッセージ
日米でお茶に関わり十数年。ずっと変わらぬ思いがあります。それは「お客様がいつでも飲みたくなる美味しいお茶を開発し、心身ともに健康的な日々の実現をそっとサポートしていていきたい」というものでした。ペットボトルのお茶、抹茶カフェ、今回のCuzen Matchaと、自分がやることは時代やニーズに合わせて変化させてきましたが、思いは一貫して同じです。
ひと昔前までは、リーフから急須でさっとお茶を淹れて飲むのがあたり前でした。人々は美味しいお茶を楽しみ、品質の高い茶葉には人気が集まり、品質に即した適性な価格で茶葉が取引されていました。ところが、ペットボトルのお茶がその圧倒的な便利さで、徐々にお茶のスタンダードになると、お茶に対する需要も変化していきました。そこでは「冷たい飲料としての美味しさ」と「低価格」が求められ、それらに適した茶葉が選択されます。高品質茶葉の需要は減り、価格も下がり続け、茶農家に甚大な影響を与えているだけでなく、プラスチックのゴミ問題や、液体輸送によるCO2排出など、環境への副作用も引き起こしています。
私たち Cuzen Matchは、イノベーションの力で、もう一度お茶を楽しむことをシンプルに、世の中をもっとサスティナブルにしていきます。抹茶マシンを使って、飲む直前に、100%オーガニックの抹茶リーフから、挽きたての美味しい抹茶をつくり、それを抹茶ラテやスパークリング抹茶など、好きな飲み方で楽しむ。そうすることで、シンプルに<美味しい><茶葉の豊富な栄養素をまるごと摂れる><オーガニックの安心・安全>だけでなく、プラスチックゴミ・CO2排出も減らせて、環境にも優しい。世界中で、新たに品質の高いリーフの需要が生みだすことで、日本の茶農家を支え、日本のお茶づくりをサステイナブルにしていくことができるのです。
それらを究極的に漢字一文字で表現すると「和」になります。即ち、おいしい抹茶を飲んで、和み(なごみ)、心が和らぎ(やわらぎ)、いろいろな和え方(あえかた)も楽しめ、すべてが調和(ちょうわ)で充たされていく。みなさんと、そういった「和」の未来を、一緒につくっていけたら嬉しいです。